カートリッジの解説、その3~ケースレス弾とPDW専用カートリッジ~

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1.
2018/03/03 (2018/03/04更新) 「カートリッジの解説、その3~ケースレス弾とPDW専用カートリッジ~」 分類: 銃の知識
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冷戦の時代、いくつかの国で、薬莢を使わないカートリッジの研究がすすめられていました。このようなカートリッジを、ケースレス弾といいます。

以前に紹介した通り、カートリッジとは、火縄銃やフリントロック式のような先込め式銃がもっていた機能を、パッケージ化したものです。つまりカートリッジとは、銃そのものだと言えます。
薬莢は、そのカートリッジに必要不可欠な、弾丸と発射薬を保持する重要なパーツです。しかし撃つ側にとっては、排莢される空薬莢は、時に危険な存在です。特にフルオートでバラ撒く際には。
ギャグみたいな話ですが、空薬莢で足を滑らし転倒した兵士の話は、実際にあります。また射撃時に排莢される空薬莢は、熱を伴って弾き飛ばされる金属の塊なので、かなり危険な存在です。
薬莢がないということは、空薬莢が生じないということです。空薬莢を排莢しないため、空薬莢が生み出す危険性がなくなります。
また、カートリッジに金属を使わないため、カートリッジの軽量化とコストダウンが可能となります。そのため、一人の兵士が携帯できるカートリッジの数を、大幅に増やすことが可能となります。
さらに排莢のプロセスと機構が必要ないため、機関部の小型化が可能だと、研究に取り掛かる前は考えられていました。

しかしケースレス弾の研究は、実際に取りかかってみると、非常に高い技術的壁が、いくつも立ちはだかっていました。その壁を乗り越えて実用化に成功した国は、一つもありませんでした。
ただ、ドイツのみが、実用化の一歩手前まで漕ぎ付けました。それが、ダイナマイト・ノーベル社が開発したDM11(4.73mm×33ケースレス弾)です。
そしてDM11を使用する専用アサルトライフルとして、H&K社が開発したのが、H&K/G11です。このH&K/G11は、試験運用品ですが少数生産され、試験運用とはいえ、実際に配備されました。

DM11とH&K/G11

DM11は、金属ケースの代わりに、カートリッジの形に固めた発射薬の中に、弾頭が埋め込まれているカートリッジです。ドイツ連邦軍の依頼で、1970年代に、ダイナマイト・ノーベル社によって開発されました。
発射薬でカートリッジが出来ていて、発射時に発射薬が全て燃え尽きるため、空薬莢が生じません。そのため、重量とコストが低減でき、他の自動小銃に必要な排莢機構(空薬莢を排莢する仕組み)がいらないため作動装置の単純化と発射サイクルの高速化が可能なはずでした。



H&K/G11は、DM11を使用する専用アサルトライフルです。1970年代に、H&K社によって開発されました。依頼はもちろん、DM11と同じドイツ連邦軍です。奇銃が大好きなH&K社は大喜びで開発に取り組みましたが、開発は手こずり、完成したのは1989年です。
特徴としては、以下の三つが挙げられます。

1、全長を短くするため、ブルパップ方式を採用しています。そのため全長が750mmと、比較的コンパクトです。
ブルパップは顔の真横に空薬莢が排莢されるため、右利きか左利きかで、エジェクション・ポート(空薬莢の排莢口)を変える必要があります。しかし空薬莢のないG11はエジェクション・ポートの必要がなく、利き腕を問わず使用できます。

2、G11が他のライフルと最も異なる点は、マガジンを取り付ける場所です。マガジンは細長い棒状になっていて、バレルの真上に取り付けます。ショットガンに採用されているチューブ・マガジンを上下逆にしたような感じです。
そしてチューブ・マガジンがカートリッジが横に並べられているのに対して、G11のマガジンは縦にカートリッジが並べられています。

3、前例の全くない、円盤状のボルトを採用しています。ボルトはチェンバーも兼ねていて、バレル軸と直角に回転して、次弾の装填を行います。
ただ作動方式自体は、他のアサルトライフルと同様の、ガス圧作動方式です。バレルに穴が空けられていて、そこからガスチューブを通して発射ガスが機関部に吹き付けられ、ガス圧で機関部を動かします。
↓は、ボルトの作動を説明した動画です。通常ライフルとは全く異なる作動をしているのが、分かると思います。

https://www.youtube.com/watch?v=lv_eVojV2zo



H&K/G11とDM11の組み合わせは、未来の理想的なアサルトライフルとなるはずでした。しかし実際は、金属製カートリッジがもっている様々な利点を捨ててケースレス弾を選ぶだけの長所を生み出すことが、出来ませんでした。
金属製カートリッジには、以下の長所があります。

1、弾頭と発射薬が金属でガッチリと保持されているため、扱いが楽で、雑な取り扱いにも耐えられます。

2、カートリッジが射撃時の熱を遮断し、熱を伴ったまま排莢される。そのため、チェンバー内に熱がこもりません(もちろん、全くこもらないという訳ではないですが、金属カートリッジがない場合より、こもる熱の量が少ないということです)。

3、発射時のガス圧から、機関部を保護する役割を果たします。

ケースレスカートリッジの採用は、これらの利点を捨て去ることでした。

開発の過程で気付いた問題点としては、以下の点が挙げられます。

1、DM11は壊れやすく、取り扱いが非常に難しいデリケートなカートリッジでした。火薬を固めただけのカートリッジは非常にもろく、衝撃に弱かった。そのためダブルカラムのマガジンは使えず、シングルカラムのマガジンを採用することとなりました。
G11のマガジンが、細長く使い勝手が悪い形をしているのは、これが理由です。衝撃に弱いため、四角柱状に成形したカートリッジを縦列に積み上げるしかなかったのです。
マガジンが細長いため、マガジンチェンジは、とてもやり辛かった。また予備マガジンとして装備するのは、戦闘時の邪魔だった(鉄パイプを腰にぶら下げて、飛び跳ねたり匍匐前進するようなものですから)。

2、熱を保持し逃す役割を果たす金属製カートリッジがないため、機関部に熱がこもり易かった。技術者が想定していたよりもはるかに効率良く、金属カートリッジは、発射の際に発生する熱を捨て去っていました。
そのため熱がこもった状態のチェンバーに次弾を装填すると、コックオフという現象が発生し易いという問題が生じました。コックオフとは、カートリッジが周りの熱で自然発火し暴発するという、非常に危険な、銃火器としては致命的な現象です。
この問題は熱対策のコーティングでなんとか対処でき、普通に使用する限りはコックオフが発生しないレベルにまで改善できました。しかしラフな使用には、耐えられないままでした。

3、機関部に熱がこもり易い上に、発射時のガス圧を全て機関部で受け止めるため、従来のライフルより機関部を頑丈に作る必要が生じました。
ガス圧に耐えられる頑丈さを実現するため、機関部を大きく作る必要が生じました。ケースレス弾は排莢の過程がないので機関部を小型が出来るという予測は、全くの机上の空論に終わりました。

4、脆いケースレス弾を使用するための独特の装填方式と、大き目の機関部のため、反動が強かった。そのため命中率が悪かった。

5、当初は金属部品を使わないため、コストダウンが可能だと思われていました。しかし装薬をきちんとした形に固めるのは予想よりも手間がかかり、量産効果を考えてもコストダウンは難しかった。

結論として、得られた利点は、カートリッジが軽くなるため携帯弾数を増やせるという一点だけでした。後は全て想定から外れ、G11は使い勝手が悪い上に、高コストで、コックオフの危険が付きまとう欠点だらけな銃でした。
さらに一番の問題は、カートリッジの脆弱さでした。湿度と衝撃に弱すぎて、軍用品に必要な頑丈さに欠けていました。また、この欠点はケースレス弾特有のもので、技術が進歩しても克服不可能と判断されました。
そして冷戦の終結による軍事費の縮小により、ケースレス弾の研究は凍結となりました。H&K/G11とDM11は、冷戦時代に咲いた徒花として終わりました。

↓は、冷戦時代に製造された映像です。

https://www.youtube.com/watch?v=UoTU-X0qbnQ

G11試作品の完成が、1989年。一方、無煙火薬が発明され、金属カートリッジの技術が完成したのが、1884年。
H&K社とダイナマイト・ノーベル社の技術者は、一生懸命頑張って新技術を開発し、つぎ込みました。ケースレス弾の未来を夢見て。
なのに、百年前の技術に適わなかったのが、なんとも哀しい現実です。



冷戦の終結によって開発が凍結された武器があれば、冷戦後の兵器運用思想の変化によって、新たに登場した武器もあります。それが、PDW(個人防衛火器)であり、その専用カートリッジである小口径高速弾です。
PDWとは、1990年代から登場した銃火器の形態の一つで、運用はサブマシンガンと非常に良く似ています。しかしサブマシンガンが一般の拳銃弾を使うのに対して、PDWは専用に開発されたカートリッジを使用します。

PDW専用カートリッジの特色は、ボディーアーマーを着用した敵兵士やテロリスト対策として、貫通力を重視している点です。そのため、ライフル弾を小型化したような形をしています。
ただし、ライフルを上回る貫通力を有してはいません。ケプラー繊維でできたボディーアーマーは貫けますが、セラミックで出来たプレートを貫くことはできません。

代表的なカートリッジは、5.7x28mm弾と4.6x30mm弾です。ただ現状において主流となっているのは、5.7x28mm弾の方です。そして最も普及しているPDWは、5.7x28mm弾を使用するP90です。



ライフルのようにカートリッジの形が縦に長ければ、長い分だけ容積があるので、ピストル用のカートリッジより多くの火薬を入れることができます。弾丸が発射する際は、カートリッジ内の火薬を爆発させて、その圧力を使うので、火薬が多ければ多いほど燃焼圧力が増え、威力が増します。
また小口径で、しかもライフルの弾頭のように先の尖った弾頭をしています。そのため空気抵抗が少なく、弾頭が威力を保ったままターゲットに到達します。弾頭が小さいため軽いことも、重力の影響が少ないため、威力を保つことに貢献しています。

5.7x28mm弾(用途:PDWとハンドガン、ジュール:400~600)

ベルギーにあるFN社が、1991年から販売を開始した、初のPDW専用カートリッジであり、そして最も広く普及しているPDW専用カートリッジでもあります。
写真を見れば分かる通り、ライフル用のカートリッジを小型化した形をしています。先の尖った小さな弾頭を、通常のピストル弾を上回る高速で撃ち出すことによって、エネルギーを一点に集中させて高い貫通力を生み出す訳です。
またP90だけでなく、5.7x28mm弾を使用するハンドガンのFive-seveNを、FN社は開発し、販売しています。

特徴として、弾頭がアルミで出来ていることが挙げられます。アルミ製のため軽量であり、そのため高速が出ます。また先端には、鉄製の貫通体が埋め込まれています。鉄の硬さとアルミの軽さによって、弾頭自体も高い貫通力を生み出しています。
5.7x28mm弾の通常弾は民間の所持が禁止されていて、民間バージョンは先端をプラスチックに取り換えることによって、貫通力を弱めています。またアルミでなく鉛にして(=重くして)、貫通力を弱めたFMJの民間バージョンもあります。

使用している主な銃:P90、Five-seveN


4.6x30mm弾(用途:PDW、ジュール:400台)

ドイツにあるH&K社が、FN社に対抗意識を燃やして、2001年から販売を開始したPDW専用カートリッジ。開発においては、G11の開発を行ったH&K社なので、DM11の弾道データを生かして、貫通力と殺傷力の両立に勤めました。
しかし5.7x28mm弾を上回る性能を証明することが出来ず、販売は苦戦しています。このカートリッジを使用する銃は、現状ではH&K/MP7のみです。H&K社は、Five-seveNに対抗して、4.6x30mm弾を使用するハンドガンのH&K/P46を開発していましたが、中止となりました。

使用している主な銃:H&K/MP7のみ


形状の相似ゆえに、PDWはサブマシンガンに分類されるケースもあります。しかし、これはPDWが近年になって生まれた銃種であり、また普及しきっていないからです。
PDWとサブマシンガンは、新たに開発した専用のカートリッジを使うか、あるいは、すでに普及しているカートリッジを使うかという点で、大きく異なります。
サブマシンガンは、通常の拳銃弾を使用します。一方PDWは、前述した通り、貫通力を得るため、ライフル弾を小型化した形状をした専用弾を使用します。

PDWは、サブマシンガンの大きさでありながら、ライフル並みの貫通力を得ることを目的として開発された銃です。





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