[日本映画]その男、凶暴につき: 2012/06/17 Sacky


そのおとこきょうぼうにつき / Sono Otoko Kyoubou ni Tsuki
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2012/06/17 最高(+3 pnt) [編集・削除/削除・改善提案/]
by (表示スキップ) 評価履歴 / プロバイダ: 13067 ホスト:13380 ブラウザ: 4894
【総合評価】
「ビートたけし」としてしか知られていない北野武が映画監督として、初めて包まれたベールを剥いだ名作。しかしながらとてもデビュー作とは思えないほどの突出した才能を見せており、かの蓮實氏や黒澤監督がその才能を認めただけのことはある。で、見た印象なのだが、全体的にどことなくドライでありかつ生々しい。私はこの作品を「北野武版時計じかけのオレンジ」と呼んでいる。ではなぜそう思うのかいくつか理由を記していこう。

一つ目には、この作品の冒頭のシーン自体が浮浪者に対して無軌道な暴力を振るう若者という、「時計じかけのオレンジ」の冒頭に出てきたシーンそのものだからだ。そこでの見せ方もまた上手くて、普通は暴力を振るう若者に焦点があてられるものだが、このシーンでは暴力を振るわれる浮浪者の方に焦点を当てて、その浮浪者が転がっていくのをクローズアップで見せる形によって独特に緊張感がそこに生まれるのである。だが、このシーンの本当に凄い所は一歩間違えれば単にお下品でグロテスクにしかならない筈のこのシーンをどこかで一歩引いたような空気で撮っている所があり、ギリギリで浮浪者に感情移入させない作りになっている。また、若者をあまり映さなかったのも暴力を振るう若者はあくまでも状況理解のために置かれた駒であり、時計じかけのオレンジと違って重要人物ではないからだろう。ここら辺の判断力はさすが北野武という感じだ。

二つ目に、全体的に映像演出が冷たくて乾いているのである。なので登場人物たちがゴダールのような感じではないにせよ殆ど感情移入しない作りになっている。まあ役者のキャスティングや演技それ自体は素晴らしいと思うし、どれも芸能界において第一線で活躍している人たちだけれども、だからといって誰か一人に感情移入できるような作りにはなっていない。ここが凄い所で、主人公の我妻をはじめとして全員そこに生きた感情を持った登場人物であるという感じがまるでせず、後ろからピーンと張り詰められた糸のようなもので吊るされている感じになってしまう。だから誰かが暴力を振るおうと、また逆に振るわれようとそれに対して「うわ、痛い!」という感じがまるでせず、淡々と処理されていく。また、その映像演出の真髄はラストシーンにおいて見られ、ここで我妻は清弘を殺した挙句、「まわされ」て狂ってしまった自分の妹ですらも容赦なく射殺するわけだが、そのシーンの光と影を対比させた映像のショットが見事だ。一度振るわれたらテンポよく最後まで暴力を振るい続けるのが北野映画なのだが、このシーンの一連の流れやショットは抜群で未だに頭から焼きついて離れないのである。逆に言えばこのカットを撮りたいがために心を砕いてると言っても良いだろう。

扱ってるのが警察とヤクザ、そしてそのマフィアたちが振るう暴力ということで、後の「グッドフェローズ」等々スコセッシ映画と似ているとの指摘もあるようだが、それはまずないと思う。確かに北野武はスコセッシファンの一人だが、この作品の公開は89年、グッドフェローズは90年だから順番としては逆である。また、スコセッシの映画は全体的にもっと華やかで登場人物が生き生きとしている。また頻繁に放送禁止ワードを普通のあいさつの感覚で使うのがスコセッシの映画の特徴だが、北野武映画はそこまでむき出しにならない。音楽・音響の使い方においても違う。スコセッシ映画の場合はロックを中心として音楽をガンガンかけてとにかく雰囲気を前面に押し出すのに対して、北野武映画は基本的に音楽は一つか二つ位で殆ど音楽は使わずに芝居の空気感、間と役者の演技によって押し切るという感じだ。少なくともこの作品においてはそういうものになっており「いかに音楽をかけるか」ではなく、「いかに音楽をかけないか」を重視した作りになっている。あと、これが最大の特徴だけどスコセッシ映画は過剰に状況を説明して理屈づけようとする上、カメラワークは上手い癖にバチっと決まった効果的なショットが撮れない。対して北野武は映像の論理を中心として無駄な説明は極力しないし、構図からショットの撮り方からきちんと意識された物になっているからメリハリが効いている。ここが最大の違いだ。スコセッシってなかなか良い写真撮れない監督なのよね〜、好きなんだけど。

話をまとめると、この映画は北野武のデビュー作とは思えないほどよく撮れた映画だ。キャスティングは勿論ショットの撮り方から映像の編集、音楽の使い方の全てにおいてだ。まあ強いて言うならばラストのワードを打ってる女性のカットは要らなかったと思うが、それでもこの作品全体の評価を影射すものにはならない。映像の古さはしょうがないが、それでも時代を超越した面白さがあり最後まで見れる。評価は「最高」である。



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