[小説]ゆめつげ: 2006/06/18 遠野


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2006/06/18 良い(+1 pnt) [編集・削除/削除・改善提案/]
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ペリー来航から10年、大政奉還すこし前の江戸が舞台。鏡の中に白昼夢――望むものを幻視する能力を持った、貧乏神社の禰宜を主人公に据えた物語です。
少々うだつの上がらない彼に持ち込まれた「行方不明となって久しく経つ、裕福な商家の子どもを探す」と云う依頼。育ての親の利欲が絡まり、2転3転、混乱する状況。何とはなしに神社から動けなくなった彼らに降りかかる事件、そこからはじまる、ひそやかな、けれど大きな蠢き。
時代要素とファンタジー、ミステリー性が混ざりあった小説です。肩肘張ったところのない平易な文章は、取っ付きやすく、さくさくと気軽に読み進めることができました。

のびやかに動く、登場人物たちがとても魅力的な作品です。
軽妙なコミュニケーション描写が、目に楽しい。特に、万事おっとりした兄と、しっかり者で生真面目な弟の、漫才めいた遣り取りが、非常に愉快なのです。
宮司である二人の父親や、氏子の婆さん、札差夫婦や子供候補の3人の親達、それぞれの立ち回りが活き活きとしており、作品全体に勢いを付与しています。
情景描写も、馴染みのな単語が使用されている割には分かりやすく、丁寧です。経済的に逼迫した神鏡神社と、高い社格を誇る白加巳神社の対比もおかしい。巻頭、巻末の図解も、中々に便利。親切です。

只、気になった部分も幾つか。口調といい、不甲斐ない自分にコンプレックスを抱いている所といい、主人公が「しゃばけ」シリーズの主人公と、妙に被ってしまうのです。己が内面を零すシーンが多くある所、また、彼を叱咤する弟の立ち位置等、作品全体の雰囲気も、似通り過ぎているのではないか、と思ってしまいます。
女性の影が薄いのも、いまいち寂しい。
ストーリーに関しても、何だか妙に尻すぼみな印象。大政奉還に絡み、廃仏毀釈、それが齎す影響にまで、大きく話を広げてしまっていますが、そのぶん密度が薄まった風。
序盤の方がテンポ良く面白く、吸引力に満ちていると感じました。もっと子供探しに重きを置いた方が、確り読める物語になったのではないか…と思います。

それでも、ストーリーが綻ぶことはなく、きちんと収まりのよい形に纏まりを見せています。最期まである程度の軽妙さを持続させたまま、お仕舞いを果たしているのも好印象です。
子供探しの結果、またエンディングも爽やかで清清しい。やさしく後を引く雰囲気が、美しかった。

思い返してみれば主人公の能力は、どんどん大変なものに進化して行ったけれど、結局それほど役に立っていなかったような。矢鱈と吐血シーンが多くて、痛々しかったです。
彼の能力の行く末や、状況から考えて、シリーズ化はどうやら無理そうです。只、彼が最期に幻視した未来のひとコマが印象的だった分、続きなどつくらずに、このまま柔らかく消えてゆくほうが、作品として、とても綺麗なのでは、とも。
何はともあれ、軽めの時代小説として、楽しむ事ができました。この手合いのジャンルが苦手な方にも、お勧め出来る作品ですよ。



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