[小説]樅ノ木は残った: 2019/10/06 墨汁一滴


もみのきはのこった / The fir tree has remained
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名作と呼ばれるのは分かる。まず主人公、原田甲斐を始めとする多数の登場人物がそれぞれ深みをもって描かれている。エンタメにありがちな紋切り型がない。物語の展開も劇的、小説的というより、現実の政治の世界そのもののように複雑で錯綜し、つかみどころがなく、迷宮的、多層的である。加えて、こういう権謀術数の物語に美しい自然描写が対比させてあって、普遍的な情緒でもってじわじわ訴えかけてくる。タイトルになっている樅の木を始め、川魚や大鹿など自然の事物が人間の政治的陰謀の世界と対極の価値観を体現している。

そして本書最大の感動ポイントはやはり主人公・原田甲斐の人物像にある。この人は悪人として歴史に名を残している人らしいが、本書ではそれが180度逆転し、悪人の汚名を着て伊達藩を救ったヒーローになっている。しかし私は原田甲斐なんて人の存在はまったく知らなかったし、伊達騒動という事件のことすら知らなかった。歴史オンチの悲しさである。従って本書を読んでも「おお、なんと斬新な解釈!」などと感嘆できるはずもない。

まあとにかく、本書中の原田甲斐は素晴らしい人物である。頭脳明晰、人格円満、人から好かれ信頼され尊敬され、胆力があって駆け引きにも優れ、女にももてる。その原田甲斐が藩を救うためにとことんわが身を犠牲にするという、その自己犠牲の精神、というか侍というのはそういうものだという毅然たる思想、そしてその思想に殉ずる潔さ、これが読者の心を打たずにはおかないのである。



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