[小説]モンテ・クリスト伯

この作品、要は主人公ダンテスの途方もない「復讐劇」である。さてこのダンテス、14年と言う歳月を無実の罪で幽閉される。そして海上の牢獄シャトー・ディフにおいて幸運にもフェリア神父と出会い、幾多の知識とモンテクリスト島の財宝のありかを教えられる。その後神父の最後を見届け、その遺体と入れ替わることで脱獄に成功し、やがて財宝を手に入れ、それを元手にモンテクリスト島と伯爵の称号を得ることになるのである。
こうして地位と金の力を手に入れたダンテスは、自分を陥れた者達へ復讐を開始することになる、以上が大筋になる。

それにしてもダンテスの「復讐」は恐ろしい。ダングラール、フェルナン、ヴィルフォール、彼らの命を奪うなどという安易で3人にとっても楽に成り得る手段など勿論ダンテスは決して採らない。自ら手を下すこと無く過去の罪や悪事を白日の下にさらし、彼らの今まで手にしてきた社会的地位、金銭、家族それらを次々と崩壊させ破滅へと追い込むのである。
そして己の欲にしか頭に無かった3人は皆哀れな末路を遂げる。フェルナンは自殺、ダングラールとヴィルフォールは悪漢ベネデットを利用することにより後者は発狂し、前者は逃亡するも山賊に捕まり、その後はダンテスの語った話で茫然自失、髪も白髪になり復讐の全てが終わることになる。

個人的には「復讐」というものを果たした事がダンテスにどれだけの意味があったのか未だによく判らない。それどころか文末を見る限りでは、やはり「復讐」などとは生産性のある行為ではないだろう。彼の行為は無関係の3人の家族にまで累が及んでしまうものであったし、何ともいえない虚脱感を読者に残してしまう(少なくとも私には)。そうなると、こういった行為はほとんど無価値でただの自己満足に過ぎない。
だが獄中でフェリア神父はダンテスに「人の性は元来罪を好まむことはなく『欲』というものを与えられた時によって善良な本能を押し殺し悪へと導かれる」と諭していた。そう考えると欲に歪む人の精神の弱さをこの作品は裏付けてくれるとも言える。

大デュマの代表作であり長編物であるが、巧みな構成とサスペンス、さらに巧妙なトリックを交えた本作は読者を飽きさせない仕上がりになっていた。評価は「とても良い」。